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第78話 父の願い

Author: 天咲琴乃
last update publish date: 2026-07-26 20:10:31

朝露に濡れた世界樹が、柔らかな陽光を受けて輝いていた。

結婚式まで、あと数日。

王城では準備が慌ただしく進められている。

ルピナスは一人、父・サクラディウスに呼ばれ、王の執務室を訪れた。

「お父様。」

「入っておいで。」

優しい声だった。

王ではなく、一人の父親の声。

ルピナスは静かに椅子へ腰掛ける。

机の上には一冊の古いアルバムが置かれていた。

「これは……。」

ページを開く。

そこには幼い頃の自分。

父の肩車ではしゃぐ姿。

母と三人で笑い合う姿。

忘れていた思い出が、一枚一枚よみがえる。

「こんな写真……。」

「全部、大切に取ってあった。」

サクラディウスは優しく微笑んだ。

「王という立場になってから、お前と過ごす時間は少なくなってしまった。」

「もっと話を聞いてやればよかった。」

「もっと抱きしめてやればよかった。」

ルピナスは首を横に振る。

「そんなこと……。」

「あります。」

父は静かに言った。

「私は王である前に、お前の父親だった。」

その言葉に、ルピナスの目が潤む。

「すまなかった。」

父の謝罪だった。

王ではない。

一人の父親としての。

ルピナスは涙をこらえながら笑っ
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    朝露に濡れた世界樹が、柔らかな陽光を受けて輝いていた。結婚式まで、あと数日。王城では準備が慌ただしく進められている。ルピナスは一人、父・サクラディウスに呼ばれ、王の執務室を訪れた。「お父様。」「入っておいで。」優しい声だった。王ではなく、一人の父親の声。ルピナスは静かに椅子へ腰掛ける。机の上には一冊の古いアルバムが置かれていた。「これは……。」ページを開く。そこには幼い頃の自分。父の肩車ではしゃぐ姿。母と三人で笑い合う姿。忘れていた思い出が、一枚一枚よみがえる。「こんな写真……。」「全部、大切に取ってあった。」サクラディウスは優しく微笑んだ。「王という立場になってから、お前と過ごす時間は少なくなってしまった。」「もっと話を聞いてやればよかった。」「もっと抱きしめてやればよかった。」ルピナスは首を横に振る。「そんなこと……。」「あります。」父は静かに言った。「私は王である前に、お前の父親だった。」その言葉に、ルピナスの目が潤む。「すまなかった。」父の謝罪だった。王ではない。一人の父親としての。ルピナスは涙をこらえながら笑った。「もう十分です。」「私は幸せです。」「だから、お父様も自分を責めないでください。」父娘は静かに笑い合った。───その頃。城の中庭では、フジが落ち着かない様子で立っていた。ダリアが腕を組み、にやりと笑う。「緊張してる?」「……少し。」「少しどころじゃないでしょ。」フジは苦笑した。「ラスボスより緊張する。」ダリアは思わず吹き出した。「世界を救った騎士が?」「好きな人のお父様には勝てない。」その返事に、ダリアは大笑いした。「それでこそフジ!」───やがて扉が開く。執事に案内され、フジは執務室へ入った。サクラディウスは静かに立ち上がる。二人だけの空間。しばらく沈黙が続いた。先に口を開いたのは王だった。「フジ。」「はい。」「娘を愛しているか。」迷いは一瞬もなかった。「はい。」「命より大切です。」サクラディウスは静かに首を横へ振る。「違う。」フジは目を見開く。「命より大切では困る。」「……え?」「命を懸けて守るのではない。」「命ある限り、一緒に笑って生きてほしい。」その言葉は、父親だからこそ伝えられる願いだった。フ

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  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第74話 新しい風

    春風が、優しく吹いていた。 世界樹は再び大地へ深く根を張り、王都には色とりどりの花が咲き誇る。 戦いの傷跡は少しずつ癒え、人々は笑顔を取り戻していた。 今日は、この国にとって特別な日。 そして、一人の少女にとって、新しい人生の始まりの日だった。 ─── 「きれい……。」 鏡の前で、ルピナスは小さく息を呑んだ。 純白のドレス。 胸元には世界樹を模した刺繍。 藤色の宝石が陽の光を受けて静かに輝いている。 髪には満開の藤の花。 ダリアは目を潤ませながら何度もうなずいた。 「世界で一番きれい。」 「……泣かないでよ。」 「無理!」 ダリアは抱きついた。 「処刑台に向かっていたあなたが……。」 「今日、お嫁さんになるなんてぇぇぇ!」 二人は思わず笑った。 マーガレットも優しくベールを整える。 「幸せになってください。」 「はい。」 ルピナスは力強く頷いた。 もう迷いはない。 ─── 教会の鐘が鳴る。 大きな扉が開かれた。 赤い絨毯の先には、黒の礼装に身を包んだフジが立っていた。 いつも冷静な彼が、今日は少しだけ緊張している。 ルピナスが歩き始める。 一歩。 また一歩。 前世では処刑台へ向かった足。 今は、大切な人の待つ未来へ向かう足。 涙で景色が滲む。 それでも彼女は笑っていた。 フジもまた、優しく微笑む。 「待っていた。」 その一言だけで十分だった。 ルピナスは彼の前へ立つ。 フジはそっと手を差し伸べた。 「これから先も。」 「笑う日も。」 「泣く日も。」 「迷う日も。」 「全部、一緒に歩こう。」 ルピナスは迷わずその手を取る。 「はい。」 「あなたとなら。」 「どんな未来も怖くありません。」 ─── 司祭が静かに問いかける。 「健やかなる時も。」 「病める時も。」 「互いを愛し、支え合うことを誓いますか。」 「誓います。」 二人の声が重なった。 指輪が交換される。 祝福の鐘が鳴り響く。 その瞬間。 教会中に大きな拍手が湧き起こった。 「おめでとう!」 「ばんざーい!」 花びらが舞う。 世界樹の枝からも、藤の花が風に乗

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  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第7話 王子、尾行する

    ローゼン王子は決意した。調査が必要だ。なぜルピナスが自分を振ったのか。なぜ避けるのか。なぜ「結構です!!」なのか。その謎を解かなければならない。王族として。未来の国王として。そして何より。一人の男として。「殿下」側近が声をかける。「なんだ」「現在何をなさっているのでしょう」ローゼンは真剣な顔で答えた。「尾行だ」側近は頭を抱えた。学院の放課後。ルピナスは上機嫌だった。隣にはダリア。今日も美人である。「ダリアー!」「なんですの」「ケーキ!」「知っていますわ」「楽しみね!」「貴女は犬ですの?」ルピナスは笑った。前世ではほとんど話せなかった。

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第6話 フジという男

    帰りの馬車の中。ルピナスは向かい側に座るフジを見つめていた。フジは窓の外を見ている。無言。ひたすら無言。静かだった。あまりにも静かだった。ルピナスは耐えられなくなった。「フジ」「なんだ」返事は早い。「趣味は?」「剣術」「それ仕事では?」「そうだな」会話終了。ルピナスは困った。ダリアがいたら笑っていただろう。「好きな食べ物は?」「米」「子供?」「違う」会話終了。ルピナスは天井を見上げた。何この人。難しい。しばらくして。フジが口を開いた。「お前」「なに?」「なぜ王子を振った」ルピナスは固まった。核心だった。聞かれると思っていた。

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第2話 結構です!!

    部屋の空気が凍り付いた。ローゼン王子が固まっている。私も固まっている。いや、違う。私は冷静だ。とても冷静だ。なぜなら一度死んだから。「え?」ローゼンが間抜けな声を出した。「今、なんと……?」「結構です」私はもう一度言った。「付き合っていただかなくて結構です」沈黙。メイド達も固まっていた。一人のメイドが口元を押さえている。笑いを堪えているのかもしれない。気持ちは分かる。王子が振られるなど前代未聞だ。「ルピナス」ローゼンは困惑した顔で言った。「君は熱があるんだろう?」「ありません」「風邪で頭が混乱しているんじゃないか?」「しておりません」「いや、

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第1話 24歳で処刑された令嬢

    私は二十四歳で処刑された。冷たい石畳の上に膝をつく。首には重い枷。広場には大勢の民衆。空はどこまでも青く、今日が私の処刑日だということが信じられなかった。ルピナス・カーディナル。侯爵家の長女。第一王子ローゼンの婚約者。そして――国家反逆罪の罪人。反逆などしていない。私はこの国のために勉強した。王妃候補として歴史を学び。外交を学び。政治を学び。夜更けまで本を読み続けた。すべては未来の王となるローゼン殿下を支えるためだった。それなのに。私の視線の先にいる彼は、一度もこちらを見ようとしない。隣には美しい女性が立っていた。隣国の王女、マーガレット。彼女は私を見

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